MBAでの学びが英語教師の仕事につながった瞬間

昨年末に作り始め、最近まで改良を続けていたワークシートがある。 様々な研修や文献を読んで、生徒の読書に「深い読み」を与え、併せてライティング力やスピーキング力を高められるように作ったものだ。生徒の反応を見ながら調整し、半年かけて作ったといえる。 このワークシートを授業で使うと、生徒の目の色が変わる。どのレベルの生徒でも、読む活動が深まり、ライティング力や話す力を高められる。15分から20分ほどの活動であるが、使うたびに手ごたえを感じている。生徒の内発的な意欲を引き出す仕組みを取り入れているから、生徒も負荷を感じながらも楽しそうである。 自分で教授法を開発し、それを目の前の生徒に提示することは、結構しんどい作業だと、最近感じる。それは、自分の好きなものを相手にさらけ出し、「私がいいと思うものだから、気に入るよ。あなたたちもやってみて!」とお願いしていることと同じだ。 とくに実践例のない活動であれば、なおさら生徒の反応が怖い。だからこそ、そんな不安に負けないために、教師の信念と情熱が必要である。 生徒からの感想を毎回求めている。改善に役立てるためであるが、生徒のコメントはおおむね好意的であり、安心する。 自分で仮説を立て、プロダクトを作り、それを実践する。結果を集め、検証し、改善につなげる。この作業が、本当にエキサイティングである。日々の仕事が、やらされる業務から、研究に代わるのだ。 このワークシートについて同僚から「みせてほしい」と言われたので、二つ返事で説明した。 驚くほど激賞された。「お世辞抜きに、大学院の研究レベルの教材ですよね、これ。使わせてください」とまで言ってくれた。 実はこれ、ある団体の教育研究企画に投稿し、評価されたアイディアである。斬新な内容であるようだが、現場の教員が見てもかなり「使える」と思える内容に仕上がっているようだ。 ワークシートとは、標準化の形態である。授業の質を均質化し、再現性を高める。だからこそ同僚も使いたいと思ったのだろう。そもその私は英国のMBAで「サービスの標準化」について研究していた。この時の経験が、英語教師になって活きるとは思わなかった。MBAでの学びが、無関係であるはずの英語教師の仕事とつながった瞬間である。 あるベテラン英語教員は、「英語教師は教授法実践と研究テーマの2つを持つべきだ」と語っていた。同感である。英語教師はセミナーに行って教授法のネタを仕入れるだけでなく、みずから研究者として問いを立てて論文を書くべきだ。それが結果として、目の前の生徒の利益になる。

地道にコツコツ

6月は目の回るような忙しさであった。帰宅時間も遅くなり、家庭での役割を果たせていない。体力的にも精神的にもいっぱいいっぱい。 そんな折、ある団体から論文を書く機会を頂戴できた。数か月前に申請していて、選考を通過したことを知らされた。正直、うれしい。 今年に入って、論文を書いたり、本を出版することを目標とした。朝の15分~30分、少しずつでも文章を書き続けている。その積み重ねが、今回の論文を書くチャンスにつながったのかもしれない。 実は、私が教えを請うたり、私淑している英語教員・研究者は、結構そこで論文を発表している。昔からあこがれていたので、自分にもそういったチャンスを与えられたことに感謝したい。私の実力は、自分が一番よくわかっているので、英語教員としてまだ駆け出しの私にとって、厳選なる選考に通過するとは夢にも思わなかった。驚きのほうが大きい。 大学院での研究を想定し、すこしずつ大学院進学の準備をしていたが、今回のうれしい「誤算」で、それもストップ。まずは論文を書き上げることが第一。質の良い論文を書き、それを土台にして次のステップを考えたい。 もう一つのチャレンジとして、学会発表も応募してみたい.60%程度の出来でもいいので、まずは行動していこうと思う。 目の前の生徒のためになる、新たな英語教育法を構築する。そう志を立ててキャリアをチェンジしたので、日本の英語教育界の一隅を照らすような、地味だが他の人が取り組まないようなテーマで研究を進めていきたい。

論文作成に行き詰ったとき

自分で研究論文を書いていると、筆が進まなくなるときが多々ある。頭をつかうことに疲れ、すべてを投げ出したくなる。 そんな時は、少しずつでも、歩みを止めないことが大切なようだ。 独学で大検に合格し、慶応大学通信教育部を卒業して、東大教授になった柳川先生の著書を読み、なるほどと手を打った。 以下、少々長いが、大変よい話だったので、引用する。 柳川範之『東大柳川ゼミで経済と人生を学ぶ』日経ビジネス文庫 「研究開発は恋愛と似ている面がある、というと、研究開発をしている人からお叱りをうけるかもしれませんが、将来どうなるかとても不透明感が高いなかで、前に進んでいるという意味では、恋愛と似た構造を持っていると思うのです。」 「ここでの共通点を生じさせているキーワードは、将来に対する不透明感、経学的にいうところの「不確実性」の大きさです。この不確実性の高さにいかに立ち向かうか、つまり、どのような考え方で対処していくのが望ましいのかを考えるという意味で、研究開発投資と恋愛には共通点がある」 「臆病になるのは、将来がよくわからないからなのです。」 「実は、将来がよくわからないのは研究開発ばかりではありません。われわれ学者の研究も、研究を進めていった先にどんな結果が出てくるのか、わからないまま手探りで研究を進めている場合がほとんどです。」 「でも、将来がよくわからないという状況は、変えられそうにありません。(中略)そんな場合はどうすればよいのでしょうか。答えは簡単です。少しずつ進んでいくことです。それによって環境変化にうまく対応していくことが可能になります。」 「新しいことを始めるにあたっては、十分に下準備をして、どちらの方向に進めばよいかじっくり研究してから、一気に飛び出す。ある意味で理想形です。」 「しかし、現実には、そこまでうまく計画を立てられるとは限りません。この先どのようなことが起きるかわからず、相手がどんな反応を示してくるかわからない。そんなときは、すこしずつ進んで、辺りを見渡し、微調整をしながら、また少しずつ進む-そんな対応が求められます。」 「これはと思えるときがくるまでは、すこしずつ進んでいくほうが、最終的にはよい選択だと思うのです。大事なことは、すこしずつ進む!。 「往々にして、先が見えないときにする行動は、見えないからと歩みを止めてしまうか、見えないけれど突き進むかのどちらかになりがちです。でも、歩みをとめてしまっては、前へは進めません。少しずつ様子を見ながらでもよいから、前に進めておくこと、これは成功のカギの一つです。」 私も論文を書いていると、いったんすべてを投げ出したくなってしまう。しかし、少しずつでも、前に進み続けることが大切だと気づかされる。1日、1行でもよい。文章を書き、研究論文を書き続けようと思う。