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よい発問のために(1)
まさに目から鱗。私の教育観をひっくり返すような出来事について書く。
私の授業ビデオを見ていただいたところ、先生からはオーラルイントロダクションは、まったく不十分な出来だと指摘された。「教師がなんとなく英語を使っているだけの、チャラい授業だ」と言われ、自分の授業の浅い本質を見抜かれた。同時に恥ずかしさとくやしさで、頭がいっぱいになった。
「本当のオーラルイントロダクションを教えてあげよう。教えることは芸事である。芸事は、まず真似から始まる。どうせ真似するならさ、しっかり真似しようよ」
この言葉が、耳から離れなかった。こんな厳しい指摘は、所属校でもらうことはできない。校内で研究授業をしても、「いい授業を見せていただいて、勉強になりました」程度の、社交辞令だけのフィードバックしかもらえないので、より一層驚いたのだ。
「学校なんて、組織なんて冷たいもんよ」と、先生はおっしゃる。自分で教授法を磨かねばならない。厳しい指導は、愛情の裏返しだ。また豊富な経験と指導理論なくして、的を得た指摘は行えない。それだけに、経験豊富な先生に、自分の授業を見ていただき、指導していただけることは、千載一遇のチャンスであった。是非とも、本当のオーラルイントロダクションのコツを会得したい、とおもった。
「
指導していただいている方と、オーラルイントロダクションを行うときの考え方について話し合ったときのことである。
生徒へ問いかける場面で、どうすれば相手に響かせることができるか。何も考えず、問いかけても、相手にストンと落ちないのだ。オーラルイントロダクションでは、学習者へ問いかけ、何か反応を引き出したい。その時、簡単な質問が良いか、複雑な質問が良いか。
私の師匠はこういう。「生徒に聞かせる英語は、なるべく短く、複雑でないものがよい」という。いつも「生徒にとって負荷のかからない表現はないかと考えるべきだ」「もっと言えば、生徒にとって幼稚すぎる表現で問いかけるほうがいい。「答えを引き出した後、リキャスト(正しく言い換えること)して、この後は高度な表現を言っても良い。」「学習者はなんとなく理解できる」
私は驚いた。私はつい気の利いた表現や、複雑な文法を使いがちであるが、答えは簡単な方が良いという。だって幼稚な表現で質問されたら、生徒は自分が馬鹿にされている、と感じるのではないか、と思ったからだ。私ならそう思っただろう。そんなことわかってるって、と。
「いや、幼稚な表現の方が、生徒にとって負荷がかからない。ストレスなく質問を理解できる。だからその分、内容に集中できる」と先生はおっしゃる。
私はこの言葉を聞いて頭をがつんと殴られたような衝撃を受けた。問いかけ一つとっても、ここまで考えなければいけなかったのかと。これまで、学習者の思考様式を考えず、無造作に発問していたことに気づかされた。
昔、私が英国の大学院に留学中、ベテラン教師が、初めにsilly questions(馬鹿げた問)をよく投げかけていたのを思い出した。「そんなことわかってる」「ばかにするな」と反発したのを覚えている。しかしこの方が、その後の説明をよく理解できたのも、確かだ。彼女はあえて学習者にとってsillyを思える幼稚な表現で質問していた。学習者から反応を引き出し、高度な表現や内容に切り込んでいたことに、私はいまになって気づいたのである。
この「生徒から情報を引き出したいとき、新情報を問うときは、まず幼稚すぎる表現で質問するほうがいい」とは、どういうことであろうか。しばし考えた。あえて幼稚な表現で問いかけるということは、生徒の理解を促し、適切な表現を身につけさせたいとういう教師側の愛情ではないか。相手のことを考えれば、問いかけ一つとっても、理解しやすいように言葉を慎重に選ぶ配慮が必要なのだ。
あえて幼稚な、シンプルな表現を使って問いかけ、生徒に英語処理の負荷をかけず、内容に集中させてやる。そこから正しい情報を引き出し、より高度な表現を提示して理解させるのだ。
例えば日本語で考えてみるとわかりやすい。(教師)「本田圭佑はいい人、悪い人?」(’生徒)「いい人」(教師)「そう、彼はよいことをカンボジアで行っている。本日は本田圭佑の深淵なる海外事業の取り組みについて理解を深めよう」と、幼稚な問いかけで生徒から正答を引き出し、より高度な表現を伝えると、確かに理解しやすい。聞いたことのないようなかたい表現も、幼稚な問い→正答の引き出し聞いたことのないようなかたい表現も→より高度は表現の提示、の手順で、生徒もなんとなく理解できるであろう。
Is he doing something good or bad?
と聞くよりも、
Is he a good person or bad person?
と簡単な表現で聞いたほうが、生徒にとっては理解しやすい。
生徒から good という反応を引き出してから、より高度な表現を提示する。
Right, he is a good person. そこから He is doing something great. とか He is making a significant contribution to this country. などの表現を提示すると、生徒にとってはすっと理解しやすい。
私はつい気の利いた表現や、複雑な文法を使いがちであるが、答えは簡単な方が良い。
「生徒に問いかけるとき、どうしたらもっと簡単に英語で表現できるか、と常に考えるべき。そこに頭を使う。それが教師根性である。」と先生はおっしゃった。問いかけ一つとっても、奥が深い。先生とのやり取りで、気づかされた。
まさに目から鱗。私の教育観をひっくり返すような出来事であった。
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