8 国家資格「全国通訳案内士試験」は、なぜ大学生が受験すべきなのか(3)

 第三の理由は、数多くの資格の中で、通訳案内士は、日本人である強みを最大限に生かすことのできる試験であるからだ。観光地で多く目にするのは、通訳案内士が語っている英語を、訪日外国人は身を乗り出して聞く場面だ。ここにヒントがある。例えば東京の浅草寺を想像してほしい。日本文化を英語で説明しているアメリカ人と、同じく日本文化を英語で説明している日本人がいる。外国人観光客にとって、どちらが信用できるか。当然後者であろう。しかも相手が国家資格を保有している日本人ガイドであれば、尚更話を聞きたくなるのは人情だ。 私が英国の大学院に留学した時、よく週末に妻と観光へ出かけた。その時によく利用したのは、現地の観光ガイド案内であった。英国人のガイドから観光地の説明を聞き、彼らの歴史への考え方や、大切にしているものを感じ取りたかったのだ。特にイングランド北部のヨークで受けた「古城観光ガイド」は、2000年の歴史を感じさせるガイドとして深く記憶に残っている。やはり、観光地で「現地人」の専門ガイドから説明を受ける、という行為自体が魅力があるのだ。 外国人にとり、その文化を体現した職業についている自国人は魅力的な存在である。2005年にタイのバンコクで軍事クーデターが起こった時、私はワットポーでタイマッサージ師の資格を取得するため研修を受けていた。そこで出会ったドイツ人の理学療法士が、私に勧めたのは、鍼灸やマッサージであった。「日本人なら、タイマッサージよりも鍼灸や按摩ではないか。外人であるドイツ人が鍼灸をするより、日本人が鍼灸をしたほうが、外国人には魅力的である。」彼の言葉は、日本人であれば、通訳案内士として日本文化を伝えることは、日本人にしかできない、日本文化を体現する仕事であることを裏付けている。 もちろん日本人の通訳案内士も、欧米人ネイティブのような完璧な英語をはなせるわけではない。それでも、日本人の通訳案内士から英語で説明を受けたいという需要が厳然として存在する。国内外を問わず、観光地を訪れた旅行客は、現地ガイドとコミュニケーションをとり、その国の文化を知りたいのだ。だからこそ、多くの資格の中で、通訳案内士は、日本人である強みを最大限に生かすことのできる試験である。 若い旅行客は、同世代のガイドと関わることを希望するものだ。若いフレッシュな視点で通訳ガイドが行われることは、日本の観光業を一層活性化させる。ぜひ高校生や大学生の方に全国通訳案内士試験へ挑戦してほしい。 c

7 国家資格「全国通訳案内士試験」は、なぜ大学生が受験すべきなのか(2)

第二に、通訳案内士の試験対策は、高校生や大学生が今まで学校で学んできたことが、そのまま生かせるのだ。経済学で考えると、高校生や大学生にとって、通訳案内士試験を勉強することは、「限界費用が低い」試験であり、効率的である。どういうことであろうか。 経済学に「限界費用」という概念がある。簡単に言うと、1単位当たりの製品やサービスを追加で作るのに、必要となる費用のことだ。具体例を挙げてみる。パソコンを生産するのに、1000万円投資して工場を設立した。投入する材料は5万円分だ。1台目のパソコンを生産するために、1005万円が使われた。しかし2台目以降を生産するにはたった材料代5万円しかかからない。この2台目以降の費用を、「限界費用が低い」と考えるのだ。 大学生にとって、通訳案内士は「限界費用が低い」というのは、今までの学習経験が大いに生かせるということだ。1次試験科目5科目(英語、日本歴史、日本地理、一般常識、通訳案内の実務)のうち、大半は高校生や大学生が、実は学校ですでに学んだ科目なのだ。高校を卒業したばかりの大学生であれば、まだ記憶している項目も多いはずだ。あとは試験傾向に合わせ、少し掘り下げて学ぶだけである。これまでの知識を活用できる。またセンター試験で一定の点数を取れば、試験科目の免除制度も利用できる。センター試験で日本史を60点以上、政治経済を80点以上取得すると、日本歴史、一般常識の科目試験がそれぞれ免除されるのだ。 英語も、高校生や大学生にとって「限界費用が低い」、効率的に学べる科目だ。日本人であれば、中学校から6年間、大学生であれば更に4年間、英語を学んでいる。授業時間と授業コマ数をかけると、1000時間以上の時間を投入している計算である。これを試験対策に振り向けるだけでよい。また英語科目も試験免除制度ある。英検1級やTOEIC900点以上の取得者は、英語筆記試験が免除される(免除制度は頻繁に変更されるので、毎年確認が必要である点に注意)。2つとも難易度が高い語学試験といわれるが、これも対策の方法次第で、取得は十分可能だ(後述する)。 つまり高校の学習や、大学入試対策が、そのまま試験免除に生かせるのだ。知識ゼロから学ぶことに比べ、すでに持っている知識を生かせ、学びやすい。高校生や大学生にとって、1単位当たりの成果を上げるために「限界費用が低い」勉強なのだ。そして試験対策に必要な「学習時間」を十分確保できるのも、学生のメリットである。是非挑戦してほしい。 V

6 国家資格「全国通訳案内士試験」は、なぜ大学生が受験すべきなのか(1)

 訪日外国人は増加の一途だ。2018年は3000万人以上の外国人が日本を訪れた。直近10年間で6倍である。外国人旅行者が増えるにつれ、英語で通訳観光ガイドを受けたいというニーズも高まっている。有償で通訳ガイドを行うためには、「全国通訳案内士試験」に合格して都道府県に登録することが原則だ。 一方、2018年の通訳案内士法改正で、規制緩和され、無資格者でも金銭を受けって通訳ガイドすることが認められた。しかし訪日外国人側から見れば、「国家資格取得者」からサービスを受けたいという希望は強い。またガイドを採用する旅行会社の大多数も、資格所有者であることを採用の最低条件としている。資格の価値を高め、無資格者と有資格者の差別化を図ろうとする観光庁の意向もあり、今後も全国通訳案内士の資格は、能力・品質を証明するブラント的な意味を増していくだろう。  全国通訳案内士試験は、受験資格が不問であり誰にでも門戸が開かれている。受験者のボリュームゾーンは50代(30.5%)だ。一方で20代は7.1%、10代に至っては0.3%である(平成28年度)。人生経験を積んだ人が受験する傾向を示している。けれども試験構成や社会背景を考えると、全国通訳案内士は大学生こそ受験すべき試験である。理由は(1)学歴に関係なく自身を差別化でき、キャリアデベロップメントの点で競争優位となる (2)高校・大学の学びを生かせる、限界費用の低い試験 (3)日本人である強みを最大限に生かせる資格 という3点に集約される。  第一に、全国通訳案内士資格を取得することは、自分自身を差別化でき、キャリアの可能性を大きく広げることが出来る。そもそも通訳案内士試験は、高度な語学力と日本事象の専門知識の有無を問う試験を、掛け合わせたものだ。試験自体がユニークで他に類を見ない。そしてこの資格は語学系で唯一の国家資格であり、公的な身分と能力を証明する武器ともなる。自分の知識と技能を示すため、名刺にも資格を記載することが出来る。資格を取得すると、他人と差別化され、公的な身分証明も手に入る面白さがある。有名大学出身でなくとも、語学と専門知識に秀でていることを履歴書に刻めるのだ。 また他の語学試験に比べ、合格者数が少なく希少価値がある。平成30年度の合格者(英語)はわずか753人である。一方で、案内士試験と同程度の難易度と言われる英検1級は、年間合格者数は2500人程度である。またTOEIC895点以上の年間取得者は、30,000人程度と更に増える。 資格取得後、通訳ガイドの独立事業者として活動することも可能だ。まず都道府県に登録申請が必要である。一般的に、語学資格だけで独立することは厳しい。しかし通訳案内士の資格は、語学プラス観光関連の専門知識を証明する。だから力さえあれば独立事業者として、観光業界で即戦力として働けるのだ。 専門知識を生かして社会貢献もできる。全国通訳案内士として、訪日外国人向けの観光や道案内ボランティアなどを行うことも可能だ。人生100年時代に、仕事と家庭以外の「第三のコミュニティ」を作ることは、豊かな人生を送るうえで不可欠だ。通訳案内士という専門性を武器に、ボランティアすることは、お金には代えられない喜びや充実感を感じられよう。