「先生の授業、時間過ぎるの早いっすよ」

あと数回で1年間の授業が終わります。

先日ある生徒 A君から、「先生の授業、時間が過ぎるの早いよ。眠くないし」と言われました。
「それっていいこと?」と聞くと、「そりゃいいことですよ。世界史とか、すごく長く感じるし(笑)」と答えるのです。

この一言は、私にとって、非常に大きな意味のある言葉でした。

理由は、以下の通りです。

私に言ってきたA君は、家庭環境に問題を抱え、1度は道を踏み外したことがあります。
そして中学の授業もほとんど出ないまま、高校へ入学してきました。

当然ですが、私の英語の授業は理解できず、すぐに寝てしまいます。
教室の先頭に座っている生徒に寝られると、教師の自尊心は粉々に踏みにじられるものです。
私は、「真面目に授業を受けない生徒が悪いのだ」と、自分を正当化して気を紛らわしていたのを覚えています。

6月頃のある日、彼がいつものように授業で寝ていると、ある生徒が「おまえ、あんまり堂々と寝るなよ」と諭すと、
彼はさらりとこう言い放ったのです。
「眠くなるような授業をするほうが悪いんだよ」

嫌みのない言いようが、私の胸にぐさりと突き刺さりました。
冗談でもなんでもなく、これは彼が本気で思っていることなのです。
彼にとって「眠くなるような、つまらない授業しか出来ない自分」を、恥じたものでした。

この日から、私は授業改善に本腰を入れました。
「彼を眠らせないような授業がしたい」
「眠られるような授業をしたら、負けだ」

身銭を切って授業研究セミナーに足しげく通い、そこで学んだ事を、ひたすら指導案に盛り込み、書き直し続けたのです。

ある進学校のベテラン教員が模擬授業をしたとき、「この授業方法は使える!」と感じた時を覚えています。
授業展開が工夫されていて、生徒が眠る暇がない。頭と体が常にアクティブにならざるを得ないのです。
彼女は、「私も生徒に寝られてしまい苦労しました。生徒に寝られたら負け、という気持ちで授業しています」と言っていたのを聞いて、「同感だ。生徒に寝られることほど悔しいことはない。まずはこの人の方法をコピーさせてもらおう」と決めました。

参考にした授業は彼女だけではありません。さまざまな先達の授業を体験し、使えそうな授業活動をかき集め、指導案に盛り込みました。とにかく必死で研究し、授業で使っては生徒の反応をみて修正を続けました。
結果として、授業内容が大きく変わり、私自身も授業をすることが楽しくなったのです。

冒頭の話に戻ると、授業について来れず、いつも寝ていたA君から、「先生の授業、時間過ぎるの早いっすよ」と言われたことは、私のこの1年の苦労が報われた瞬間でもありました。
どんなレベルの生徒であっても、眠くならず、楽しく、(少しは)英語ができるようになったと実感できる授業が、多少とも実現できた証だからです。

その彼ですが、私が授業を担当しなくなった次の年、学校を去りました。家庭の事情で、結局は高校をやめて、別の学校に転学したのです。大変残念だったのですが、しばらくして学校に来た時、一教科担任の私にも、わざわざ挨拶に来てくれました。「先生の授業、楽しかったっす。お世話になりました」

「一番教師を鍛えてくれるのは、目の前の生徒」と、ある方は言っていました。
これは真理なのかもしれません。

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