なぜ彼は「要注意人物」なのか 〜語用論で分析する

「あの人、さっぱりして感じいいよね」

と感じる人がいる一方、

「あいつ、なんか信用できない。含んだ物言いで嫌らしい印象だな」

と印象を与える人、いませんか?

特に、後者は、仕事をする上で「要注意人物」。
どこの世界にもいるものです。
言葉を額面通りに受け取ると、痛い目にあったり、うまく利用されたりする。そんな人、周りにいませんか?

わたしたちはなぜこういった印象を感じるのか、掘り下げてみたことはありますでしょうか。

なぜ自分がそう感じるのかを分析できると、相手への理解も深まります。
心地よいコミュニケーションをする相手を「こういう点で自分もまねしてみよう」と思えたり、面倒臭い相手を「仕方ない」と許せたりできるようになります。

また、「要注意人物」への対処力も高まります。

しかし、徒手空拳では分析はできない。
コミュニケーションの分析する上での「とっかかり」が必要です。

それはなんでしょうか?

語用論で用いられる、「協調の原則」と「4つの公理」を知っていると、相手との対話を分析できるようになります。

協調の原則とは次のようなものです。

”会話が起こっているステージで、求められているだけの貢献を行え。会話が起こっている状況下での受け入れられている目的や方向性という観点から。”(Grice, 1989, 26)

当たり前のことですが、お互いが本来必要なContribution(貢献)を、誠実に行うことが、そもそもの対話の基礎です。

この「協調の原則」を基に、グライスは会話の参加者が遵守すべき「4つの公理」を提唱しました。

1、量の公理
必要な情報はすべて与える。
必要以上の情報は与えない

2、質の公理
偽であると考えられることは言わない。
十分な根拠に欠けることは言わない。

3、関連の公理
関連性のないことは言わない

4、様態の公理
わかりにくい表現は避ける
曖昧な表現は避ける
できる限り簡潔に表現する
秩序だった表現をする

協調の原則に基づき、4つの公理が遵守されたコミュニケーションでは、言葉は表面上の言葉の意味を持ちます。
つまり、相手と話していて、信頼できるとか、さっぱりしていると感じるのは、この原則と公理が遵守されているときです。

一方、この4つの公理が遵守されないケースが当然あります。公理の逆用と呼ばれます。
この時、言葉は表面上の意味以外に、「言外の意味」を含みます。

仕事上で、「こまった人」は必ずいるものです。
責任を取らず、ごまかそうとする人。そういう人は、ほぼ間違いなく、4つの公理のどれか、またはいくつかを逆用していると考えられます。

A「そういえば昨日頼んでおいたあのレポートはもう終わった?」
B「え、なんのレポートでしたっけ?」

Bが本当に忘れていた場合、これは本当のことを言っているので公理を遵守している。
しかし、お互い処理すべきレポートについて認識している場合、Bはとぼけているケースです。これは「偽のことは言わない」という「質の公理」を逆用しています。

そもそも「要注意人物」とは、これらの原則と公理を遵守するよりも、逸脱している時が多いため、こちら側も常に頭を働かせて「言葉の意味」を考える必要がある。警戒するため、疲れることも多いでしょう。

相手が協調の原則と4つの公理を遵守しているか、逸脱しているか、という視点でコミュニケーションを分析すると、さまざまな気づきがあります。

相手の言葉を、原則と公理に基づいて分析し、言内、言外の意を正確に読み取ろうとすることで、曖昧な点を指摘することもできるようになります。
職場での「要注意人物」への対処力もあがることでしょう。

そして私自身の発する言葉は、原則と公理に従って、協力的でシンプルな言葉の使用を心がけたいと思います。

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